ランダム効果ロジットと固定効果ロジット.
計量社会学でも用いられることが多くなっているマルチレベル分析には, 何らかのデータのまとまり (同一個人に属する複数のデータ, 同一の国に属する複数の個人など) の情報を利用して, 通常の回帰モデルに比べてバイアスの小さい点推定を可能にし, また文脈効果の推定において適切な区間推定を可能にするというメリットがある. この特性を活かすには, 典型的には階層化されたデータ (パネルデータや国際比較可能なクロスセクション・データ) を用いるのが一般的であるが, 本稿では通常のクロスセクション・データにもマルチレベル分析が柔軟に適用可能であることを示すために, 家族関係についての豊富なデータをもつNFRJ (全国家族調査) を使った分析例を示す. 具体的には親との関係良好度の分析を行うが, (最大) 4人の親との関係良好度のデータは個人ごとのまとまりをもっている可能性があり, マルチレベル分析に適している. 分析の結果, 親との居住距離については同居・遠居よりも近居で, 金銭的援助関係については「中庸」である場合に関係良好度が高いということがわかった. これにより, 家族依存の福祉体制であるとされる日本で, 過度の援助関係が感情的なコンフリクトを高めていることが示唆される. 手法の面では, 入手が容易であるクロスセクション・データにもマルチレベル分析が適用可能であることを示すことで, データのより有効な活用を促すことができると思われる.
筒井淳也,2011,「親との関係良好性はどのように決まるか――NFRJ個票データへのマルチレベル分析の適用」『社会学評論』62(3): 301-318.
ランダム切片ロジット.
本研究の目的は、NFRJデータをマルチレベル・モデリングで分析する際の方法論的な留意点を、具体的に考察することである。NFRJデータは、回答者を中心とした11のダイアド関係の情報を収集したダイアド集積型の家族調査なので、それぞれのダイアドを第1水準、回答者を第2水準とするマルチレベル分析が有効である。
ダイアドデータ分析に関する方法論的な研究を土台として、NFRJのマルチレベル・モデリングの方法について検討した結果、以下のことが明らかになった。第1に、1人の回答者に属するダイアド数のサイズが小さいことから、ランダムな傾きのモデルを安定的に推定することは困難で、ランダム切片モデルに分析を集中させるべきである。第2に、ダイアド間に負の相関が発生する可能性があるので、ICCの解釈に注意が必要である。第3に、第1水準の独立変数の効果には、第2水準の効果が強く混入する可能性があるので、解釈が難しい。最後に、世代間援助行動の分析事例によって、NFRJのマルチレベル・モデリングから鮮明で有効な分析結果が得られることを例証した。保田時男,2011,「マルチレベル・モデリングによるNFRJデータの分析方法: ダイアド集積型家族調査の有効活用」稲葉昭英・保田時男編 『第3回家族についての全国調査 (NFRJ08) 第二次報告書 第4巻 階層・ネットワーク』,1-20.
固定効果順序ロジット.
The aim of this paper is to estimate within-family effects, between-family effects, and effects of these interactions on status attainment. The author analyzed the effects of sibling configuration, especially those of the number of siblings and birth order, on educational and occupational attainments, by applying a multilevel model to sibling data. The result showed that the number of siblings had a negative effect on educational attainments of children in the 1953-68 cohort, but its effect decreased in the 1969-86cohort. This negative effect of sib ship size was smaller for children from wealthier families. In the 1953-68 cohort, birth order had an effect on educational attainment. Elder siblings were more likely to have higher levels of education than younger siblings. This negative effect for younger birth-order siblings, however, decreased in the1969-86 cohort. Moreover, the negative effect was smaller for children from wealthier families. The analysis also indicated that both sibs hip size and birth order had effects on occupational attainment. Children with few siblings and elder siblings were more likely to have advantageous jobs. These effects, however, were mediated by educational attainment, although the direct effect of birth order remained significant at 10% level. These analyses supported the resource dilution theory and the selective investment theory, which suggested that educational strategy under constraints of economic resources led to within-family differences in status attainment.
藤原翔,2012,「きょうだい構成と地位達成――きょうだいデータに対するマルチレベル分析による検討」『ソシオロジ』57(1): 41-57.
(たぶん)ランダム重回帰(っていう言い方であっているのか?).
本稿では,教育達成を規定する要因としての家族およびきょうだい構成に着目し,教育達成に格差が生じるメカニズムの一端を明らかにするため,マルチレベルモデルを用いて分析を行った.分析の結果,家族属性変数を統制した状態でも女性は男性に比べて教育達成が低くなることが明らかとなり,きょうだい内におけるジェンダー格差の存在が確かめられた.出生順位に関しては負の効果がみとめられ,きょうだい内で遅く生まれると教育達成が下がることが明らかとなった.加えて出生間隔も負の効果を持っており,きょうだいと年齢が離れている場合には,高い教育達成を得やすくなる環境や,それを獲得するための情報資源が存在しないことが考えられる.また,長男・長女であること自体は教育達成に影響を与えないが,長男の場合はきょうだい内に男性が多いと教育達成が低くなる傾向があり,長女の場合には,次三女に比べて家庭の社会経済的地位の正の効果を受けやすいことがわかった.このように,きょうだい内における教育達成は,家族属性要因と個人属性要因の交互作用の影響も受けているのである.さらに,母親が主婦である場合に子どもの教育達成が高くなることが示されたが,これは母親が大卒以上の主婦である場合に顕著であり,高学歴の母親が子どもの教育達成を高めようとしている可能性が示唆される.
苫米地なつ帆,2012,「教育達成の規定要因としての家族・きょうだい構成――ジェンダー・出生順位・出生間隔の影響を中心に」『社会学年報』41: 103-114.
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読んでる.本郷のスタバ.
Andreß, Hans-Jürgen, Katrin Golsch, and Alexander W. Schmidt, 2013, Applied Panel Data Analysis for Economic and Social Surveys, Springer.
「パネルデータ分析の基礎と実践」勉強会行ってきました.めちゃくちゃ勉強になった.ライフコース研究やっていると,どうしても脱落が気になってしまってパネルにあんまり関心が向かなかったのだけど,俄然分析したくなってきた.それでもやはり,なんかアドバンストなことやったわりに知見がロバストになっただけ,にはしたくないので問いを精緻化しないとですね.なんにしても行ってよかった.というかやる気でた.社会学徒に会うとメンタルヘルス著しく改善される.