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Month: March 2021

「トルコにおける青年から成人萌芽期にかけての離家意欲」Akin et al. 2020

Akın, R. I., Breeman, L. D., & Branje, S. (2020). Motivation to leave home during the transition to emerging adulthood among Turkish adolescents. Journal of Youth Studies, 0(0), 1–18. https://doi.org/10.1080/13676261.2020.1820970

Although the age of leaving home has increased during the past few decades, senior year in high school remains a significant period during which many adolescents consider moving out, especially to attend university. However, the role of personal, practical and familial factors on adolescents’ motivation to leave home prior to the actual transition are still unknown. The current study investigated adolescents’ motivation to leave home while they still lived with their parents and its association with adolescent-reported personal and practical circumstances, and parent–child relationship quality. Participants were 558 Turkish senior high school students (62% female), all living with their parents in Istanbul, Turkey. Results showed that just above one third of the adolescents (38%) wanted to leave home after high school. Boys, adolescents from high SES and nonintact families were more likely to be motivated to leave home. Satisfaction with living situation, parental support for home-leaving, and importance of practical and personal circumstances influenced adolescents’ motivation to leave home. The adolescent-mother relationship was differently related to adolescents’ motivation compared to the adolescent-father relationship. Conflict with both parents, but only fathers’ warmth was associated with motivation to leave home above and beyond all practical and personal circumstances.

離家以前の離家意向の研究はないかと探していたところみつけた論文JoYでオンラインファーストで早期公開されていたものを参照

近年、先進諸国の多くで、離家の遅延がみられる。一般に社会行動は非常に複雑なものであるが、離家の経路とタイミングはかなり多様である。これまでの研究では、性別、SES、家族構造、親子関係、文化などが離家と関連していることが明らかになっている。対して、離家の背景になる個人や家族のダイナミクスに焦点を当てた研究は非常に少ないのだそう。

離家に関して経験的検証があまりされていないのが、離家にたいする Motivation(意欲、動機づけ)である。自己決定理論(SDT)は、人間の社会行動はさまざまなタイプの動機づけによって影響をうけると論じる。一般に、統制された動機づけよりも自律的な動機づけにもとづく行動のほうが、その後の幸福や満足度を促進する。この考えを離家にも敷衍すると、Motivationは、離家の決定に不可欠な要素であり、大学への適応や学業成績、親子関係、幸福感など成人期の経験全般に影響を与える可能性がある。SDTでは、autonomy(自律性)、relatedness(???)、competence(能力)を基本的な心理的ニーズとし、親との関係性がこれらのニーズを促進することを強調する。したがって、青年期の親子関係の質が離家意欲に関連していると考えられ、この関連性を検討することで、ただでさえ非常に複雑な離家の決定プロセスについてよりよく理解できるかもしれない。

著者らによると、離家意欲を調査した研究は2つだけで、ひとつは、Kins etal (2019) で、現在の居住状況の背後にある離家の動機づけのダイナミクスが、実際の居住選択よりもベルギーの成人の幸福と生活満足度によってより影響が大きいことを明らかにしている。もうひとつは、Lou et al. (2012) は、アジア系カナダ人とヨーロッパ系カナダ人の比較から、親の離家への同意と家族中心主義的傾向が離家意欲に与える影響をあきらかにしたもの。どちらの研究も、若年者の離家意欲について親の影響を強調する点で似ているが、すでに離家を達成した成人のみを対象としており問題がある。おそらく、遡及的に測定しているから問題があるといいたいのだろう。

この研究は、初離家の生起以前のmotibationをとりくむにあたり、両親とまだ一緒に居住している青年を対象にしたはじめての研究。青年の離家の最初の契機は、高等教育への参加の際。進学するものが全員離家をするわけではなく、親の管理から離れて生活したいと積極的に離家を志向するものもいれば、そうでない人もおり、離家をストレスに感じるものもいる。離家をしたい者全員が離家の機会に恵まれているわけでもなく、家を出たくない者にとっては進学時さまざまな事情から進学のために離家せざるをえないということも状況もありうる。したがって、複雑な離家の決定を理解するには、初離家の機会に先立ち、青年期の若者の離家意欲を調査することが不可欠。

離家のトレンド

北米でも欧州でも若者の親と同居する割合は、年々増加傾向にある。同時に、離家のパターンは、地域間、地域内でかなりの多様性がある。中央ヨーロッパや北欧では、南欧に比べると早くに離家を達成するものが多い。トルコでは、南欧や東欧諸国と同様の傾向が見られ、都市部では23.3歳、農村部では26.8歳となっている。多くの国でみられるの性差のパターンは、女性の方が男性よりも離家がはやい。この違いは、女性のほうが早くに安定的なパートナーシップ関係に入ることで説明されるが、その背後には女性の方が早くに大学に入学したり、自立のために離家を達成することが実質的な理由でもある。

大学生に限ると、欧州28カ国では、36%が親と同居、21%がパートナーと同居、18%が学生寮、15%が他人と同居で、1人ぐらしは10%である。ヨーロッパ平均と比べると、トルコは、学生寮に住む割合もっとも高く(40%)、両親と同居している割合は低い(29%)。性別によっても進学離家のパターンは異なる。アメリカ、オランダ、トルコでは、女性の方が男性よりも進学のため離家する傾向が高い。一方で、ポルトガルではそのような性差はみられない。全体的に、離家の文化的差異は明確に存在するが、北米や西ヨーロッパの知見がある程度あるのに比べると、他の文化圏の研究は低調である。

離家と practical and personal circumstances

出身世帯の経済状況は、もっとも研究されている離家の決定要因のひとつ。しかし、結果は両義的で高SESは離家を促すという研究もあれば、抑制するという研究もありまちまち。高SESの家庭では、高等教育進学が期待されるため、進学離家を促進するという考え方もあれば、高SESの家庭では、居住状況に満足しているため親との居住を望むという考え方どちらもできる。

家族構造もまた離家と関連する決定要因。non-intact family (両親のそろってない世帯)出身者は、 intact family に比べると、早期の離家傾向にある。とくに、ステップ関係がある場合、親子関係がより緊張していて、著しく離家が早くなる。世帯規模が大きいと、思春期の子は、過密状態を感じて、プライバシーの必要性から離家に積極的な傾向が見られる。いっぽうで、きょうだい数が多いときょうだい1人あたりの経済的資源が限られるため、離家の可能性が小さくなるという結果もある。

離家と親子関係

若年期の居住状況や親子関係に着目した研究は膨大にあるが、思春期の親子関係と離家の関連に焦点化した研究はほとんどない。これまでのところ、両親との肯定的で温かい関係は、遅めの離家と関連している。これまでの研究は、青年期の離家意欲や初離家以前の親子関係との関連を検討したものではない(成人期を対象にしてたということか?)。トルコのように、家族のつながりが比較的強く、結婚と同時に離家が達成されるような文化圏では、親は高等教育は支援しても、離家については推奨しないかもしれない。

ようするに、離家の決定は、青年期の若者の動機のプロセス形成に関わり文化的・家族的文脈を考慮しないとちゃんと理解できない。離家研究の知見は、北米や西ヨーロッパを中心としたものであり、その他の文化圏における離家を理解するには不十分である。

トルコにおける若年期と高等教育の文脈

トルコの学生の半数以上は、教育の質や大学のポピュラリティから、地元以外の大学に通う傾向にある。しかし、イスタンブールにおいてはこの傾向はことなる。イスタンブールの大学生の半数以上がイスタンブール出身である。しかし、イスタンブールの面積はヨーロッパの一般的な都市よりも大きい(ロンドンの5倍、オスロの11倍)。そのためイスタンブールの住む青年は、長い通学時間を嫌って大学に通うために離家をすることがある。このような特徴から、イスタンブール、青年期の離家意欲を検証するためにユニークな文脈を提供する土地柄となっている。

この研究の目的

 

『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか? 結婚・出産が回避される本当の原因』山田 2020

山田昌弘,2020,『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか? 結婚・出産が回避される本当の原因』光文社.

どこかでちらっとみかけたので、Kindle で読んでみた。本書は、2018年に筆者が中国社会学院という政府の政府機関に招待されておこなった報告に大きく基づいているようだ。

本書の結論を個人的に乱暴にまとめると、一般に少子化対策としては、待機児童解消など結婚した夫婦がどうしたら子どもを産み育てやすい社会となるのかといった視座から対応がされてきたが、真の要因は、そもそも若い人が結婚しない・できないことにあり、さらにその背後には機会の問題よりも選好としてパートナーシップを望んでいないことが近年の本当の原因である、といったところだろうか。

基本的に概ね同意した。夫婦の完結出生時数はたしかにここ数年減少傾向にあるが、ドラスティックに変化しているとは言えない(とはいえ、70年以降2.2人前後で安定していたものが、2000年以降一貫して減少傾向にあり2015年の出生動向では2.00人を下回ったのはかなり特徴的な変化なのだが……)。TFR減少の大部分は結婚しない・できない若者(女性)に主因があるのは間違いない。ただ、せめて簡単な要因分解でもいいから、少子化のどの程度が未婚化によって説明されるのか示してほしかった(同様の分析はかつて岩澤がおこなっていたが、もうかなり古いはず)。

筆者によると、日本の少子化対策は欧米諸国を参考としており、次のような家族に関係する慣習・意識を前提としていたとする。すなわち、

①子は成人したら親から独立して生活するという慣習(若者の親からの自立志向)
②仕事は女性の自己実現であるという意識(仕事=自己実現意識)
③恋愛感情(ロマンティック・ラブ)を重視する意識(恋愛至上主義)
④子育ては成人したら完了という意識

この4つの特徴があるために、少子化が起きなかったり(英米など)、少子化対策が効果的に働いた(フランス、スウェーデン、オランダなど)ととしている。一方で、日本には、このような慣習・社会意識はないとしている。2-4に関しては、専門ではないのでよくわからないが、①に関しては気になった。筆者をふくめて多くの家族社会学者は、概して日本には離家規範がない(あるいは乏しい)であったり、自立意識が弱いと主張してきたが、案外をこれをきちんと経験的に明らかにするのは骨がおれる。私の知る限り、筆者はずっとこの点を主張してきたように思うが厳密なテストが伴っていたことはないように思う。別にこれはディスっているんじゃなくて、本当にこの作業が難しいからである。本書でも、「日本では、子の自立志向は弱く、特に女性(娘)の自立は不要との意識が、親の方にも強い」と比較的断定的な調子で記述されているが、おそらくそのエビデンスはどこにもたぶんない。

間接的に離家規範が弱いことを示す経験的証拠はいくつかある。実態としての未婚者の親元同居率はたしかにかなり高いし、成人到達の要素をたずねてみても「親と離れて暮らすこと」を大事な要素だと答えるものは日本では著しく低い。規範というからには離家を達成できていない際にサンクションがあるか(恥ずかしさを感じるか)というのは大事な論点であると思うが、これを検証した研究を私はしらない。

私が気になるのは自立意識が弱いというときにどの程度弱いのかということである。95%の若者が積極的な態度を示していれば誰も文句なく強いといえるだろうが、日本全体ではどの程度のしきい値以下であれば、弱いのだろうか。70%、50%、30%?親と同居する未婚者に離家意向をたずねてみると、かなりの程度が離家にたいして積極的な態度を示すことはいくつかの調査さらからすでにあきらかになっている。初めての離家が生じる以前の中・高校生にたずねてみても少なくとも半数以上の男女が離家にたいして積極的な態度をしめしている。また、マクロな動向も気になるが、個人や世帯の家族人口学的特性によっても自立意識は異なるだろう。このようなミクロな問いにこたえた研究もほとんど日本では見られない。たとえば、家庭内にコンフリクトが存在すると、若年者の離家意欲はたかまると考えられるし、その逆で家庭内が親密であれば、離家に対してディスインセンティブとして働くかもしれない。

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